クラシックの最終関門、3000メートルのG1、菊花賞は10月25日に行われる。ジョッキーの腕が問われる長丁場で、現役時代に数々の名騎乗を見せたのが、岡部幸雄元騎手(66)だ。菊花賞は84年シンボリルドルフ、91年レオダーバン、93年ビワハヤヒデで3勝。菊の勝ち方を知る男に、菊花賞のポイントを聞いた。(椎名 竜大)

 ―長距離の経験が少ない3歳馬がほぼ初めて3000メートルを走る特殊なレースで、現役時代に3勝を挙げています。ひとつずつ振り返ってもらえますか。

 「シンボリルドルフの時は自信を持っていけた。何の不安もない馬だったし、調整も順調にきていたからね。レオダーバンは血統的(父マルゼンスキー)にはマイラーだったけど、うまくいったよね。外枠(大外18番枠)だったけど、うまく馬の後ろに入れたのが良かった。ビワハヤヒデは春はワンパンチ足りなかったけど、夏を越して成長して力強さが出た。前に位置して脚を使えるんだから、後ろは届かない(2着ステージチャンプに5馬身差)よね」

 ―現役時代は天皇賞・春4勝、ダイヤモンドS、ステイヤーズSを各7勝と、長距離戦で圧倒的な強さを誇りました。長丁場の醍醐(だいご)味はどのあたりにあるのですか。

 「やってみないと分からないのが、長距離の面白さ。3000メートルの競馬はなかなかないし、馬も走ってみないと分からない部分が多いからね。だから、人気のない馬でも分からない。人気馬が完璧に乗れるとは限らないし、こちらがうまく乗れば、差は詰まるからね。長距離は乗り手の意識が大事。頭では3000メートルと分かっていても、なかなかその流れに応じて動けないものなんだ。その点で、経験が豊富なベテランは有利だろうね」

 ―今年の菊花賞は2冠馬ドゥラメンテが不在で混戦模様です。どんな馬に注目して、どこを意識しながら見たらいいか、教えてください。

 「3歳の夏から秋にかけては、馬が一番成長する時期。ただ、そこまでに無理をしていると、なかなか成長しない。その辺を意識しながら、春と比べて、どれだけ成長しているかを見るといいと思う。レースは1周目のバックストレッチをいかに力まずに運ぶかが勝負。それができれば、洋一のようにうまくスパートできる(注)。逆に、ここでガツンと折り合いを欠いたら終わり。直線で脚がなくなってしまう。ジョッキーとしては、次を見据えながらひと叩きして、その内容がいいと、もしかしたら…と思える。そういう人馬に注目するといいかもしれないね」

(注)1971年の菊花賞で、福永洋一は差し馬ニホンピロムーテーを、2周目向こう正面から先頭に立たせ、そのまま押し切った。