あれだけたくさんいた「無敗の重賞勝ち馬」が、1頭、また1頭と敗れ、ついに本稿を書いている時点では、アルビアーノ(牝3歳、父ハーランズホリデー、美浦・木村哲也厩舎)だけになってしまった(5月9日の京都新聞杯を1戦1勝のロードクロムウェルが勝てば1頭増えるが)。
そのアルビアーノが、3歳のマイル王を決める第20回NHKマイルカップ(5月10日、3歳GI、東京芝1600m)に出走する。
1月に中山芝1600mの新馬戦でデビューし、2戦目は東京芝1400mの500万下、そして3戦目が重賞の前走、中山芝1800mのフラワーカップ。初戦は2番手からじわっとハナに立って押し切り、あとの2戦はスピードの違いで逃げ切って、戦績を3戦3勝とした。
牝馬なのだから桜花賞に出走したほうがよかったのではないかと思われるが、管理する木村調教師は、それほど迷わずこちらへの出走を決めたという。
「年明けにデビューして、何回も使っているので、できれば間隔をあけたいと思っていました」
木村調教師「逃げなくても力を出せる馬」NHKマイルカップを逃げ切ったのは、2012年のカレンブラックヒルと昨年のミッキーアイルだけだが、木村調教師によると、逃げなくても力を出せる馬だという。
「相手関係よりも、アルビアーノをいい状態にして出走させることだけを考え、最善を尽くしたいと思っています」
そう話す木村調教師は開業5年目の42歳。彼や、ルージュバックを管理する大竹正博調教師といった美浦の気鋭のトレーナーが牽引し、今の「西高東低」の流れを変えていく可能性が大いにあると私は見ている。
以前、私がインタビューしたとき、木村調教師は毎週、日曜日の競馬が終わると北海道の生産地に飛び、牧場回りをして月曜の夜に戻る……ということを繰り返していた。今もつづけているのか、天皇賞・春の日に京都競馬場で会ったとき、訊くのを忘れてしまったが、ともかく、馬づくりに対する熱さが気持ちいいぐらい伝わってくるホースマンである。
次ページは:「管理馬が出るすべてのレースを勝ちたい」「管理馬が出るすべてのレースを勝ちたい」「管理馬が出るすべてのレースを勝ちたいという気持ちでやっています。いつかはリーディングを狙えるようになりたいし、ダービーを勝って当たり前、種牡馬になる馬をつくって当たり前と言われる調教師を目指したいと思っています」と話してくれた彼に初めての重賞タイトルをもたらしたのが、このアルビアーノだ。
これだけコロコロ鞍上が替わる時代にあって、デビューからずっと柴山雄一が手綱をとっている。人馬の結びつきをしっかりさせた馬が最後のつばぜり合いで鼻や頭だけ前に出ると思う……と言ったのは角居勝彦調教師だが、このコンビに関しても、そうだと信じたい。
フラワーカップで3着に負かしたディアマイダーリンがその後フローラステークスで2着、4着のロッカフラベイビーがスイートピーステークスで3着となるなど、レベルの高いところで結果を出してきたことは間違いない。
ここを勝つチャンスは充分あるし、心情的にも勝ってほしい、と思う。
朝日杯FS2着のアルマワイオリの末脚も魅力。飛び抜けた馬がいないぶん粒揃いで、相手選びに迷ってしまうのだが、牡馬にとっては世代最初のガチンコ勝負である朝日杯フューチュリティステークスで2着となったアルマワイオリ(牡、父マツリダゴッホ、栗東・西浦勝一厩舎)の末脚には、ここで頂点に立っても不思議ではない破壊力がある。
デビューからずっと左回りばかり使われている良血アヴニールマルシェ(牡、父ディープインパクト、美浦・藤沢和雄厩舎)も争破圏にいる。祖母は桜花賞馬キョウエイマーチ。前走の共同通信杯から距離が1ハロン短くなるのは大歓迎だろう。
これを新潟2歳ステークスで負かしているのがミュゼスルタン(牡、父キングカメハメハ、美浦・大江原哲厩舎)だ。骨折による長期休養明けとなったスプリングステークスを叩いた上積みは大きい。
トライアルレースの1、2着馬の様子は?トライアルのニュージーランドトロフィーで1、2着となったヤマカツエースとグランシルクも好調だし、アーリントンカップを勝っているヤングマンパワー、先述した大竹調教師が管理するナイトフォックスの一発もあり得る。
ということで、いつもの印を。
◎アルビアーノ
○アルマワイオリ
▲ミュゼスルタン
△アヴニールマルシェ
×ヤングマンパワー出走馬がこれまで互いに勝ったり負けたりを繰り返しているので、力の比較が難しい。
こういうときは、前にも記したGIならではの「武器比べ」で優位に立てるもの――アルビアーノのスピードと、アルマワイオリの破壊力を評価して、重い印をつけた。
唯一の「無敗の重賞勝ち馬」が、「無敗のGI馬」になるか。それとも、ここを勝ってダービーも、と「変則二冠」を狙う馬が出てくるか、楽しみだ。
(「沸騰! 日本サラブ列島」島田明宏 = 文)
NHKマイルカップ傾向
過去10年の結果から傾向を探る。
☆人気 1番人気は【5104】。最多の6連対をマークしている。一方で、2桁人気馬が10頭も馬券に絡んでいる。07年はブービー17番人気ピンクカメオが優勝するなど大波乱も。
☆実績 連対馬20頭中18頭が重賞3着以内。例外は07年優勝ピンクカメオと昨年2着タガノブルグ。
☆脚質 逃げて勝ったのは12年カレンブラックヒルと昨年ミッキーアイルの2頭。先行2勝、差し3勝、追い込み3勝。差しか追い込みが優勢。
結論 ◎グランシルク ○アルマワイオリ ▲マテンロウハピネス
NHKマイルC直前情報
◆最内でも力出す〔1〕アヴニールマルシェ
出走メンバーで唯一のディープインパクト産駒は〔1〕枠(1)番に決まった。全4戦で手綱を取る北村宏騎手は「特に希望はなかったし、(最内枠でも)あまり心配はしていない。東京も経験しているし、力を出してくれれば」と語った。
◆いい位置に笑顔〔7〕クラリティスカイ
皐月賞5着馬は、ほぼ真ん中の〔4〕枠(7)番に入った。友道調教師は「極端な枠じゃなくてよかった。ここならいい位置が取れそう。この枠なりにうまく乗ってくれると思うので、あとはジョッキーに任せます」と笑顔で語った。
◆「丁度いい枠」〔11〕ヤマカツエース
ニュージーランドトロフィーを勝ったキングカメハメハ産駒は、〔6〕枠(11)番に決まった。「大外じゃなければいいと思っていたし、真ん中くらいがいいと思っていたので、ちょうどいいんじゃないかな」と池添兼調教師は満足げ。
◆偶数枠で「自信」〔12〕ミュゼスルタン
新潟2歳Sの覇者は〔6〕枠(12)番に入った。「どこでも問題ないと思っていたが、内すぎず外すぎずいいところ。偶数枠もいい」と大江原調教師は満足げ。「勝つ自信はあるよ。あとはジョッキーに任せる」と柴田善騎手に信頼を寄せている。
◆最高の枠ゲット〔4〕グァンチャーレ
坂路で4ハロン61秒3-14秒9と強めのキャンターを消化。皐月賞を挫跖で回避したが、その後は順調だ。枠順は〔2〕枠(4)番。中島助手は「内めのいいところで最高ですね。折り合いを心配することなく、競馬がしやすい枠」と語った。
◆内から先手奪う〔3〕クールホタルビ
桜花賞から参戦する牝馬は〔2〕枠(3)番を引いた。清水久調教師は「いいところじゃないですか。他の馬より速ければ、無理に抑えることはない。出さず、引かずで馬のリズムを大事していければいい。今は折り合いの心配もないんでね」と先手を奪う可能性を示唆した。
◆枠順に「満足」〔2〕グランシルク
戸田調教師が抽選器を回して〔1〕枠(2)番をゲット。「もう少し真ん中でも良かったという気持ちはあるけど、外よりは内がいいし、いいところではないでしょうか。スタートしてすぐに馬の後ろに入れられるのはいいね」とトレーナーは満足げだ。
◆陣営偶数枠で満足〔14〕ヤングマンパワー
アーリントンCの覇者は〔7〕枠(14)番に決まった。一報を聞いた手塚調教師は「前回(ニュージーランドT8着)のような大外枠でなければいい。(後入れの)偶数枠だしね。エンジンが掛かればしっかり伸びてくるし、中団でじっとして馬群を縫う競馬ができれば」と語った。
◆自信あり橋口弘師〔16〕ダノンメジャー
スプリングS5着のダイワメジャー産駒は、〔8〕枠(16)番。橋口弘調教師は「内でも、真ん中でも、外でも、どこでもよかった。自信を持って送り出せる状態だからね」と悠然と構えた。
◆田村師外枠を歓迎〔17〕ニシノラッシュ
5戦3勝3着2回の堅実派は、外の〔8〕枠(17)番に入った。美浦トレセンの抽選会場を訪れた田村調教師は「あまり包まれたくなかったし、前半はゆっくり行かせたかったので外枠で良かった。内を見ながら馬の後ろに入っていければ」。じっくり脚をためる作戦になりそうだ。